富士山に世界遺産の「宿題」に対する解答を世界にしなければならない日が迫ってきていることを、新聞のニュースで知りました。
2013年6月に富士山が世界文化遺産に登録されて2年が経過しました。
その時は条件付きでの登録だったのですが、やっぱりというか、地域のどろどろした利権問題が絡んでなかなかまとまらないようです。
100点満点の解答ははなから無理だと思いますが、この2年で世界的にも観光地として有名になったから、もうじゅうぶん儲けの土台はできたと考えるのも日本の地域開発らしいやり方ではあります。
でもそこには、先人達が大切にしてきた富士山への尊厳や畏敬の念は全く見えてこない。
地域は富士山に対して、何を努力すべきなのか?
富士山が世界文化遺産に登録された際に求められた、環境対策の報告期限が迫ってきました。
この山は世界遺産効果で外国人旅行者にも人気の観光スポットで、夏山シーズン中には日本人を含めて多くの観光登山者が訪れます。
そして焦点となるのは、登山者の規制です。
この報告の回答によって最悪の場合、世界文化遺産の登録取り消しもあるだけに、山梨、静岡の両県は観光振興と環境保全のはざまで苦慮しながら、来年2月の期限へ向け解決策を模索しているという。
イコモス(国際記念物遺跡会議)は日本の努力を理解していない
2015年5月26日に東京都内で開かれた富士山世界文化遺産学術委員会での出来事です。
高階秀爾副委員長(東大名誉教授)は不満をあらわにし、「富士山は汚いと思われているが、具体例をあげて理解してもらおう」と出席者に呼びかけました。
追加の課題は実施済であると反論
イコモスは世界遺産登録の是非を左右するユネスコの諮問機関。
富士山の登録にあたり環境保全など7項目の課題を指摘して、「保全状況報告書」として2016年2月1日までに提出するよう求めました。
富士山世界文化遺産学術委員会はその対応策を学識者らが協議する場です。
実務は山梨、静岡両県や文化庁などで構成する富士山世界文化遺産協議会が担い、2年近い議論の末、一連の対応策をイコモスに打診したが理解を得られなかったという。
例えばマイカー規制強化による登山者抑制策。
イコモスは今年に入って「京都の苔寺は事前予約制」と例にあげ、具体的な登山制限を求めました。
さらに、登山道のトイレ、ゴミ対策予算の確保、登山道の保全や山麓の観光客管理にも言及しました。
委員会はこの追加の課題に対し、トイレやゴミ対策については実施済みと主張しました。
登山道の保全も「富士山は岩盤なので、上部の登山道は削れない」(山梨県富士山保全推進課)などと反論する構えだという。
規制だらけの登山では地域収入の増加は見込めない
そもそも富士山をとりまく地域が重視して考える根本が、富士登山を名目にした観光収益の増加です。
入山料もその一環として行われていますが、さらに収益を増やすには、登山者を規制するのではなく、今より10倍20倍と入山者を増やしていくか、入山料をエベレストのように現状より10倍~100倍の価格にして入山者を減らして地域に還元するしかないでしょう。
この登山者数の制限については議論が続きそう。
「制限しても全ての課題は解決されない」と反論を検討するが、「一定の登山者数に達したらストップさせるぐらいの管理体制が必要」(須藤秀忠・静岡県富士宮市長)と同調する声もあります。
山梨県は夏場のマイカー規制を登録前の15日間から現在は53日間に拡大。
静岡県は今夏、5合目で実施する入山料の徴収時間を午前6時に前倒しして時間を延長。
早朝登山やご来光帰りの下山者にも対応し、徴収率を全体で昨年の約40%から70%に引き上げて間接的に入山者を抑制するそうです。
さらに両県は18年の夏山シーズンまでに望ましい登山者数を算出するそうです。
その数値に基づいて混雑時とそうでない時の平準化を提案する方針だとか。
ただ、望ましい登山者数の算出自体が難しく、効果があるかも不透明。
登山者の規制ではなく、山麓の観光施設に誘導する戦略に重きを置くべきでは?
山梨県富士山保全推進課は「手を尽くしても平準化できない場合は、予約制などイコモスの望む登山者数制限を採用する可能性がある」という。
規制が収入源に直結する山小屋の中にも「山麓の観光施設に誘導する戦略に重きを置くべきで、山小屋がある『5合目から上』で経済効果を考えるのは限界がある」(自らも山小屋を経営する宮崎善旦・富士宮市観光協会会長)という声があります。
入山者数を制限する山は世界各国にあります。
富士山の環境保全に取り組む都留文科大の渡辺豊博教授は「米国などで実績のある全地球測位システム(GPS)を使った仕組みなら混雑に合わせて、機動的な入山規制が可能。過去の情報から集中する日時を分析し、規制する方法も必要だ」と指摘しています。
保全状況報告書は2016年6月ごろに開かれるユネスコの世界遺産委員会で審議される予定。
一部対策が間に合わなくても、登録取り消しの恐れはなさそうだが、数年後に追加報告を求められる「追試」の可能性もあるそうです。
富士山に登山鉄道構想が浮上
環境か観光か。
富士山をめぐる最近の動きは、世界遺産登録を機に注目される富士山問題の根深さを映し出しています。
2015年5月26日の富士山世界文化遺産学術委員会で静岡県の安田喜憲補佐官は「静岡県は一生懸命やってきたから環境と保全の両立は考えなくて良いが、山梨県は考える必要がある」と発言しました。
山梨県という地域は、富士五湖を中心に観光施設が多く、観光客は富士山と周辺に集中しています。
ところが製造業の拠点が多く、観光施設はそれほど目立たない静岡県とでは富士山観光の重みが違うというのです。
この発言は、両県の同床異夢ぶりを浮き彫りにしました。
そうした中で浮上したのが富士山5合目へ登山鉄道だ。
国交省OBや学識者らが参加した「世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会」はこのほど、5合目と麓を結ぶ有料道路を廃止し、その敷地にヨーロッパアルプスに多く見られる鉄道を敷設する構想を提言した。排ガスの環境負荷が低下し、観光との両立が図れるという。
新たな大型施設がイコモスからどう見られるかわからず、山梨県は「事業内容がまだ見えない。イコモスへの報告書が先決」と突き放す。
それでも、登山家の野口健氏が著書「世界遺産にされて富士山は泣いている」で、自動車問題の解決やダイヤ本数の設定次第では事実上の入山規制ができる機能を評価するなど、期待の声も根強い。
イコモスの「宿題」とは別に、富士山を巡る議論は今後も続きそうです。