三浦雄一郎さんのエベレスト登頂は喜ばしいニュースですが、喜んでもいられない現状があるようです。
故エドマンド・ヒラリーさんらが1953年、世界最高峰のエベレストに初登頂してから60年が過ぎた。
100年前は未踏の領域だったが、商業ツアー拡大で最近は登山者が激増。
ごみ散乱など環境破壊を理由に入山規制を求める声も出るが、観光収入に頼るネパール政府は消極的だ。
●「5年前より、確実にひどくなっている」
史上最高齢の80歳で登頂を果たした三浦雄一郎さんが頂点で目にしたのは、かつての登頂者が飾った登山記念品のほか、シェルパらが祭ったチベット仏教のお札や旗の山などが、ごみと化して散乱した様子だった。
エベレストの登山ルートはアルピニストの野口健さんらが啓発活動をした成果もあって、以前よりごみが目立たなくなったが、頂上は別だ。
三浦さんはカトマンズでの記者会見でも「エベレストの頂上を(ヒラリーさん)初登頂の前の状態に戻したい」と、あらためて訴えた。
●2003年5月時点での登頂者数は延べ約1600人
ネパール観光省によると、現時点で登頂者は約4千人で登山者急増は止まらない。同省は今年だけで500人近くが登ったとしている。
背景には、商業登山ツアーの充実と増加がある。
エベレストのような高峰は当該国への入山申し込みや協力者の雇用など煩雑な作業が多いが、ツアーはこれを肩代わりする。
登山中も専属ガイドやポーターが付き、経験を積んだ登山家でなくても世界最高峰に登れると銘打ち、富裕層に人気となっている。
エベレストの場合、ネパール当局への許可料が1人当たり1万~2万5千ドル(約100万~約250万円)。参加料全体では500万円以上がざらだが、人気は衰えない。
他の8千メートル級の山々はエベレストの半額以下で参加できるケースも。
エベレストを含むヒマラヤ一帯で登山者の行列が見られることから「“富士山化”しつつある」(日本の援助関係者)との声もある。
●「エベレストの状況はひどい。今こそ動くべきだ」
世界で初めて8千メートル級全14座の無酸素登頂を成し遂げたラインホルト・メスナーさんの指摘だ。
三浦さんらも環境保護のため「何らかの入山規制の導入」をネパール政府に働き掛けているが、反応はいまひとつだ。
ネパールでは「ヒマラヤ」が観光産業の中心で、外貨収入の2割以上を占めるドル箱。
内陸国でめぼしい産業がない同国にとって、出稼ぎと並ぶ外貨獲得手段のため、方針転換は国家経済に直結する。
ネパール・トレッキング代理店協会のマヘンドラ・タペ代表は「ヒマラヤは魅力的な旅行地になり、ネパールの観光産業は潤っている。
だが、業界として持続可能性を考える時期に差し掛かっている」と語った。
※2013/06/03 日本経済新聞より