モンベルの辰野勇が語る経営学(6)「これ欲しい」を商品で実現

厳しい自然環境の中で使ってこそ、モンベルの商品は良さが実感できます。

これは最近流行りの都会派アウトドアブランドやファッションブランドのアウトドア路線とは、大きな違いがあります。

本当に使うシーンを知った者でないと、絶対に発想できない小技が商品の随所に込められているからです。

本当に使い勝手の良いモンベルの商品は、どのように生まれるのでしょうか?

展示会

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●商品企画ではアルバイトを含む全従業員からアイデアを集め、ボトムアップのものづくりを進める

モンベルのものづくりは、自分たちが本当に欲しい、必要なものにこだわっていることが使ってみればよくわかります。

新商品発売は、春夏と秋冬の年2回あり、それに合わせた企画会議では、毎回約5千のアイデアが約1600人の従業員から集まるといいます。

商品群はテントや靴、カヌーなど幅広く、内容も「こんなものが欲しい」「既存品のここを改善すべきだ」など様々です。

アイデアはすべて貴重ですが、ここから半年かけて、約300に絞り込まれます。

モンベルの社員は、原則アウトドアが好きな人ばかりです。

だから休日になると、山や川、海に出かけます。

野外の活動の中で起きたこと、感じたことをものづくりに生かすのです。

これは自分たちがマーケット、すなわち消費者という感覚を大切にしているということ。

辰野氏は、商品をつくるのは企画部門ではなく、自分たちだと入社時に説明をしているそうです。

アウトドアでの体験を重視するモンベルは、2週間以上の長期休暇を取りやすい職場づくりをしています。

過去に1年間休んで、南極越冬隊に参加した女性スタッフがいました。

現在も高さ世界2位のK2登山に挑戦している社員もいる。

こうした社員の経験がモンベルの強さの源泉なのです。

●現場で生まれたアイデアはこれまでになかった商品を生み出す

近年では山スカートがヒットしています。

今では女性登山者の定番となった山スカートですが、モンベルが考えたのは最初は自転車用でした。

きっかけは、世界を自転車で旅している女性からの「電車にも乗れるウエアが欲しい」という要望でした。

女性はスパッツをはいていても、腰回りを気にするのです。

だから腰回りを隠し、足の上げ下げを妨げないアウトドア用スカートを作ったそうです。

2006年に自転車用のスカートを応用した、山用スカートを発売。

当初は非常識な格好と非難されましたが、08~09年に「山ガール」と呼ぶ女性の登山ブームがあり、ファッション性と機能性が支持され、売れました。

一番売れた商品は良くて、100個しか売れない商品は悪い、というわけではありません。

最初から売れないことを予測しているのなら、企画として間違いではないのです。

100人が喜んでくれれば良い、という商品もあります。

他社が作らない少数向けの商品が、熱心な顧客を生むのです。

10万個売れる商品があるから、100個単位のものづくりができるといえます。

●現場で生まれるアウトドア用品の企画には正解がある

例えばテントの色は赤でも青でもなく、霧の中でも視認しやすいオレンジ色です。

ここが個人の好みに依存する洋服と、大きく異なります。

テントに限らず、様々な商品で軽量化を大切にしています。

1グラムでも軽くなれば、登山者の負担が減るからです。

そのためにモンベル社員それぞれの経験を生かすのです。

モンベルのキャッチフレーズは「ファンクション・イズ・ビューティー」。

機能を追求した先に美しさがあります。

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●社員は年功序列・終身雇用貫く

モンベルは、今の社会に生きる企業としては珍しく、創業から年功序列、終身雇用の日本型経営を貫いているといいます。

創業者は会社の設立時に「家業」にするか「企業」にするかの選択に迫られます。

辰野氏の実家のすし屋は、典型的な家業でした。

店で働く若い職人は経験を積むと、やめて独立します。

年々上がる職人の給与を、店が払えないからです。

辰野氏は、山の仲間と長く仕事をしたいと考え、企業を選びました。

だから同じ仲間と仕事をすると、毎年年齢が1歳上がります。

当然体力は衰えるのですが、給与は増えます。

会社の競争力を保つには毎年若い人を採用して、平均年齢を下げるしかありません。

そのために企業の規模を大きくする必要があります。

会社を存続させるために、登山用品市場の2割、100億円を30年後の売り上げ目標に設定されました。

30年とは20代で入社した社員が50代になり、会社の世代循環のサイクルが一回りする期間です。

モンベルでは、よほどのことがなければ、社員を解雇しません。

年功序列と、終身雇用は能力を持った人の給料を、増やしたり、出世させたりしてあげられない代わりに、平均的に時間とお金をかけて、社員を教育することができます。

この方法で、投資をした経験豊かな人材が、多く育つのです。

日本でも労働規制の緩和で、非正規で働く30~40代が増えました。

しかし年収100万~200万円では結婚もできません。

辰野氏は終身雇用をして、年齢とともに給料を上げていく経営に、日本的な美徳があると信じています。

●成果主義を導入する企業が増える中、その逆を行くモンベルは就職人気企業の1つになる

モンベルの経営を、同業の米国人経営者に説明しても、理解してもらえません。

成果が出ない社員を抱えることは、会社の競争力が落ちると主張するからです。

辰野氏は「自分の子どもが学校の成績が良くないと、クビにするのですか」と尋ねます。

米国のように広い国なら、落ちこぼれても他でやり直せます。

島国の日本ではそうはいかず、国や企業、地域が支えなくてはならないのです。

モンベルのような日本企業は、人にポジションを用意しますが、米国企業はポジションに人を当てはめます。

経営者からみると、必要な時に雇用、解雇ができる利点がある。

社員も能力と上昇志向があれば、出世できます。

一方で肉体的にハンディがある人は、浮かび上がれません。

日本と米国型のどちらも間違ってはいませんが、モンベルの考えでは我々の生活文化に根付いているのは日本型だと思っているという。

グローバル競争で生き残るには、自分たちの文化や習慣、独自性を持つことが重要です。

日本企業が数や力の論理で経営しては、自らの弱体化を招きます。

モンベルでは、大々的に採用活動をしていません。

しかし、数人の求人に対して数百人の応募が集まります。

決して楽な仕事ではないですが、中央官庁をやめて来た人など、能力が高く、様々なバックグラウンドを持った人がいます。

一人ひとりの仕事への熱意が、本日のモンベルを支えています。

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※辰野勇(たつの・いさむ)1966年大阪府立和泉高校卒。高校時代に読んだ本に感銘を受けて登山家を志す。69年に当時世界最年少でアイガー北壁の登はんに成功。登山用品店などを経て、75年モンベル設立。大阪府出身。

※参考/日本経済新聞

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