モンベルの辰野勇が語る経営学(4)パタゴニアとの成功と別れ

世界のアウトドアブランドの老舗といえば、パタゴニアを知らない人はいないでしょう。

そしてパタゴニアの商品開発に、モンベルが深く関わっていたことを知る人は、ほとんどいないのではないでしょうか?

モンベル創業から3年目のこと。

日本である程度基盤を築いたモンベルの辰野氏は、欧州に単身売り込みに行き、小規模ながら輸出を開始しました。

mont-bellショップ
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パーティーの席で米パタゴニアの創業者と出会う

創業3年目の1977年。

辰野氏は、ダッフルバッグに自社で作ったサンプル商品を詰めて、西ドイツに向かいました。

まずは欧州最大の登山専門店「スポーツ・シュースター」に飛び込むと、初老の男性がいました。

ドイツの言葉が分からない辰野氏は「いっそドアを閉めて帰りたい」と尻込みしてしまいましたが、意を決してサンプルを出し「私はクライマーでアイガー北壁に登りました」と話しました。驚いたことに、それを聞いて相手の表情がみるみる明るくなったそうです。

実はこの初老の男性も登山家で、商品を一つ一つ丁寧に見てくれました。

そして帰国した4カ月後に、一通の注文書が届きます。

ドイツで営業したシュースターからです。注文は寝袋100個と防寒着が少し。

この初の海外からの注文は、天にも昇る思いだったといいます。

シュースターとの取引が始まって2年後、同社のパーティーで米パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード氏と出会います。

彼は有名なクライマーで、開口一番に「この間ヒマラヤで遭難したのは(日本の有名な登山家の)サカシタではないのか」と話しかけてきました。

これをきっかけに話が弾み、わずか1時間の会話から、日本でモンベルがパタゴニアの代理店を引き受けることになりました。

patagonia

パタゴニアとの共同開発と代理店を開始、しかし事業は順調だったが撤退を決める

辰野氏は、パタゴニアのイヴォンに誘われて、米カリフォルニア州の彼の家を訪ねました。

家のすぐ目の前が海で、彼はサーフィン、辰野氏はカヤックを楽しみました。

ある時、彼のオフィスで「タツノ、新しい雨具の素材だ」と誇らしげに新しい雨具の生地を見せられた。

辰野氏は、意地悪に25セント硬貨でその生地をこすったら、4~5回でコーティングがはがれてしまった。

代わりに持参していたモンベルの雨具を出して、その場で20~30回こすってもびくともしないことに驚くイヴォンに、デュポン社の「ハイパロン」だと教えました。

実はパタゴニア初期の機能性商品の多くは、モンベルとの二人三脚で開発をしていました。

例えばポリエステルの芯を、綿で包んだ新素材を使ったズボンや、面ファスナーで腕の裾が絞れるパーカなどです。

それらは好評でしたがさらにその後、彼らが独自に開発したフリース「シンチラ」が爆発的に売れました。

日本でも、パタゴニアブランドが人気になりましたが、今度は売れれば売れるほど「なんで一生懸命パタゴニアを売らなくてはならないのか」という思いが湧いてきたそうです。

そしてとうとう当時副社長だったクリス・マックデイビッド氏が、辰野氏の自宅に来た時に「手を引きたい」と切り出しました。

これまで5億円の売り上げのうち、2億円をパタゴニアが占めていましたが、モンベルのブランドを確立するにはこれ以上、エネルギーをとられるわけにはいかないと思ったのです。

さらにモンベルが手を引いても、彼らが困らないよう鎌倉にオフィスを見つけ、パタゴニアの国内事業を引き渡しました。遺恨のないさわやかな別れです。

その後もイヴォンとの付き合いは続きました。

※辰野勇(たつの・いさむ)1966年大阪府立和泉高校卒。高校時代に読んだ本に感銘を受けて登山家を志す。69年に当時世界最年少でアイガー北壁の登はんに成功。登山用品店などを経て、75年モンベル設立。大阪府出身。

※参考/日本経済新聞

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