いいザック、いい装備をいくら揃えたとしても、今度はそれをザックの中に機能的にパッキングしなければ、その恩恵を受けることは難しい。
詰め方(パッキング)のセオリーを知っているか否かで、疲れ方が全く変わってくるからだ。
そしてもう一つ、旅から帰宅した時のザックのメンテナンスも重要である。
決して安くはない買い物であり、旅の友だから、長く大切に使って欲しい。
●『パッキングは重いものを上に』の意味
昔からザックのパッキングは「重いものを上に」といわれているが、これをそのままうのみにしてはいけない。根本的に間違っているわけではないが、その言葉の本質を知っていないと誤ったパッキングをしてしまうからである。
かつて日本の山岳界において主流を占めていたキスリング型ザックでは、この言葉はセオリーのように使われていた。左右に幅広く、前後の奥行もあるキスリングは、重量バランスが左右に片寄ったり、下部や外側(背中と反対側)に寄ったりすると、バランスがわるく、背負いにくいことこの上なかった。
逆に、横に広いぶん、高さはあまりなく、重いものを上部にパッキングすることでバランスがとれたのである(余談だが、ヒップベルトもフレームもなく、いわば巨大なズタ袋状のキスリングを背負いやすくパッキングをするには、そうとうの経験が必要だった)。
つまり「重いものを上に」の真意は、「重心を肩の後ろあたりで体に近い位置に持ってくる」ということなのだ。
現在のザックのパッキングでも、基本的にこのことは当てはまる。この位置に重心が来ることによって、ザックはより体にフィットし、荷重の分散が図られるのである。
しかし、すべての場面においてこれでよいかというと、必ずしもそうとはいいきれない。
例えばある程度路面が整備されていて、アップダウンも少ないコースを長距離歩くのであれば、重心は前述より多少高めにしてもよい。個人差もあるが、より重い荷物を背負いやすいとい売る。逆に、岩場などを含む山岳地では、重心が高いとザックが振られることもあるため、背中の中心近くまで下げたほうがバランスがよい。
しかし、こうして言葉にするのは簡単だが、実際にパッキングするとなるとなかなか難しいものがある。
まず、重い荷物、軽い荷物の判別である。軽い荷物としてはシュラフ、防、寒暑、マット、フリーズドライ食品などが挙げられる。これに続くものとして雨具や着替え、テントなど。重い荷物にはストーブ、食器、そのほか小物(救急用品やヘッドランプ、カメラなど)、そして水が挙げられる。
さらに行動中の使い勝手も考えなければならない。よく使うものは取れ出しやすい位置に、テントやシュラフなど、一日の終わりまで取り出す必要のないものはザックの奥底で構わない。
ここで言う「よく使うもの」としては、行動食、水、雨具、防寒具、カメラ、ヘッドランプなどが挙げられる。
その日の天候やペース、体調などによってパッキングを変えるといい。
さて、パッキングしてゆくと、食器や燃料タンク、テントボールなど、どうしてもデコボコする部分が出てくるかもしれない。
しかし、極端なものはともかく、少々のことは気にする必要はない。
インターナルフレームとコンプレッションベルトのおかげで、背負いごこちには大きな影響はない。中の荷物をぬらさないために日本は雨の多い国である。
雨で体がぬれることは、即体温低下に結びつくし、場合によっては死にすら至ることもある。
荷物に問しても、ウエアやシュラフがぬれてしまえば、同様のことがいえる。
現在、ザックのほとんどはリップストップナイロン、コーデユラナイロンなどが使われており、これらの生地の裏側には防水コーティングが施されている。
しかし、実際には縫い目の部分や、ファスナーなどから、あるいはこすれて損傷したコーティング部分から水はしみこんでしまう。
そこで、荷物を防水性のあるスタッフバッグや厚手のビニール袋に分けて入れ、パッキングする。沢登りなどザックがそのまま水に浸かるような場合には、ビニール袋を二重三重にしたり、防水バッグに入れた各荷物をさらに大きな防水バッグ(ザックにすっぽり入るほどのもの)に入れてパッキングしたりもする。
通常のバックパッキングでそこまでする必要はないかもしれないが、水というのはすき問さえあれば確実に侵入する。大雨に備えて厚手のビニール袋を持っているといいだろう。
また、ザック全体をシャワーキャップのようにスッポリ覆ってしまうザックカバーも必携装備である。ただし、強い雨や長時間の雨では背中側から水が浸入しがちなので、前述の防水パッキングと併用すること。
余談だが、最近、晴天時でもザックカバーを掛けている人を見かける。しかし、ザックの汚れ防止以外に特に効果はない。
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●メンテナンスはこの点に注意
ブーツやシュラフなどに比べれば、ザックのメンテナンスはそんなに気を使うことはない。以下に述べるいくつかの点に注意して手入れしよう。
旅から帰ったザックは、まず中の荷物を全部出して充分に陰干しにする。表面が汚れているようであれば、ぬれた雑巾などで拭いてやる。
洗剤を使う場合は中性洗剤を薄めてぞうきんに含ませて使うが、拭き取りを充分にしておかないと内側のコーティングが傷むことがある。
小型ザックなどはそのまま洗濯できそうだが、これまたコーティングがはがれる原因になるので絶対にしないこと。多少の汚れは、旅の勲章としよう。
なお、前もって撥水スプレーをかけておくと、水をはじくだけでなく汚れをつきにくくする効果もある。
ショルダーストラップや背面は、汗を吸って汚れたり塩をふいていたりすることがある。放っておくとカどやニオイの原因にもなるので、やはりぬれぞうきんでよく拭いて、陰干ししておこう。
ファスナー部分はゴミや砂が詰まっていればつまようじなどで取り除き、動きがシブいようであればろうそくをこすりつけておく。
そのほか、ハトメ部分や強い力がかかる縫製部分にほつれや損傷がないかチェックしておく。
最近のザックは、少々手荒く扱ってもへこたれない丈夫な素材でできている。ただし、火には弱いので取り扱いには注意しょう。