世界の人々の心に宿る巨樹信仰

南米エクアドルでは今も、マングローブ林の巨樹(アメリカヒルギ)の前を通るときには、現地の皆がお辞儀をしていくという。
樹高64.5メートルでおそらく世界一高いマングローブだが、その巨樹の森はひとつの聖地になっています。
聖地だから6本ぐらいに株立ちした主幹はもちろん、支柱根さえ伐られることはないし、道路を建設するときも迂回させているそうです。

北ビルマ(ミャンマー)に住むカチン族やリス族、シャン族の間でも、いまだ多神教の世界が残っていることを渋沢寿一氏(NPO樹木環境ネットワーク)はいう。
巨大なラガット樹(インド菩提樹やインドゴムノキ)は、土地の守り神が宿る木として崇められています。
四方八方に伸びた枝には気根が何本も垂れ下がり、根元には木でつくった洞が置かれ、お供え物がいつも用意され、お灯明がついていることから、毎日その巨樹の前に帯の目を立てる人たちが集うということです。

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大地とひとつらなりになったこの巨樹が、精霊宿る神のように感じられてくるから不思議です。
台湾でも巨樹信仰は同じで、神木として、クスノキや台湾ヒノキなどの巨樹を保護し、その隣に廟(道教の社)を建てます。もうもうとした線香の煙の中、参拝する多くの人たちの姿を見ることができます。

西洋では、ケルト民族やゲルマン民族も巨樹を崇めています。
伝えるところでは、樹木崇拝(ドルイド教)の対象となった樹種はオークヨーロッパナラ)が断然多い。
雷がオークに落ちることが多かったためなのか、オークは神の依代として信じられたのです。

ギリシャ人のドドナの森の信仰も、オークの巨樹信仰そのものです。
雷神ゼウスはドドナの森のオークに宿ると考えられていました。
この他、アイルランドのある地方ではイチイが、スコットランドではナナカマドが聖木として崇められていました。

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北欧のフィンランドなどにも特別な樹木信仰があることを文化人類学専攻の竹村真一氏(東北芸術工科大学助教授)が紹介されています。
サーメと呼ばれる少数民族がトナカイを飼育しながら生活していますが、そのシャーマン(祈祷師)が使うドラム用の素材は、特別な樹で自分と兄弟になってくれる樹でなければならない。
しかも森の樹木の南側の皮でなければならない。
なぜならば出来上がったそのドラムが太陽をはじめ、天界と交感していくことが求められるからです。
ドラムは降臨する空からの神とコミュニケーションするためのアンテナの役目を果たすことになります。

クリスマスツリーは、多神教時代の冬至の儀式がキリスト教に引き継がれたものだといわれています。

土着のドルイド教では、太陽の力が最も衰えたとき、その復活を願う冬至のお祭りとして、緑多き葉に赤い実をつけたセイョウヒイラギを樹木の精の避難所とし、部屋にはヨ-ロッパモミを天井からつるしたり、挿したりしていたことなどから、クリスマスツリーは、この風習が変形したものと考えられています。

記録に残っているクリスマスツリーでいちばん古いものは1605年。
ドイツ領アルザス地方で、ヨーロッパモミにビスケットやリンゴをつるしたことが起源とされています。
イギリスはじめヨーロッパ全土へ広がっていったのは、比較的新しく19世紀以降。

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日本の正月に玄関に飾るの門松も冬至のころ、新しい年の神に来ていただくための目印、神の依代となっているものですが、その起源をたどればクリスマスツリーと同じ役割があったといえるでしょう。

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