ちょっと気分的に優れないとき、嬉しいことがあって気持ちが高ぶっているとき、気持ちをリセットしたいと思ったら、巨樹の森を歩きながら森林浴をするのがいちばんいい。
乱れた精神状態を、すっきりと整えてくれます。
巨樹の魅力と、健康に効果的な森林浴の方法を紹介しよう。
森林浴の効果が一番高い散歩の時間の選び方
森林浴の元になるのは、リラックスさせる効能があるとされる「テレペン」という成分です。
スギ林でおこなった調査によると、午前三時と午後三時の測定では、「午前」のほうがテルペン類は高い濃度を示します。
一日のうちでは正午近くにテルペン類の濃度は最高となり、午後になると少しずつ低くなります。
夜は昼間の10分の1以下になってしまう。また、昼に雨が降ると、晴れの日の10分の1から50分の1にまで減少してしまう。
このことから森林浴をするなら、できれば午前中に行う方がいいことがわかります。
もし通勤通学路に神社や森林公園があるなら、ちょっと寄り道して歩いてみるのもいいかもしれません。
山で比較する森林浴の効果が一番高い場所の選び方
①山の頂上部と、②山の中腹、③山の麓の比較では、テルペン類の濃度は、②の中腹が最も高い。
空気よりも軽く揮発性の高いテルペン類が、山の中腹では森の葉に覆われていて拡散しにくい。さらに森の入り口よりも奥のほうへ入っていったほうが濃度は濃くなっていきます。
森林浴を兼ねた巨樹鑑賞には、できれば「晴れた日」の「午前中」に、しかも「山の中腹」を通りながらおこなうのが最も効果があります。
森林浴の歴史
森林浴の歴史は意外と古い。その起源は1930年頃。
ロシアのB・P・トーキンが植物に揮発性の殺菌素があることを発表し、それをフィトンチッドと名づけたことが森林浴のはじまりです。
医学的にも証明されている森林浴の効果
森林を歩くと血圧を6パーセント程度下げ、ストレスを減少させてくれるし、瞳を開かせ交感神経活動を抑制します。
つまりストレス状態を解放し、体をリラックスさせながらも活気のある状態をつくり出してくれます。
また、リラックスしたり、意識を集中したときに出る脳波(α波)を増やす効果もあります。
森の中を歩くという行為は、人体の生理学的な観点からも最良と言われます。
頭の中で、静かな巨樹の森にいる場面を想像するだけでもよい。このとき生理的にリラックスした状態になれます。
巨樹の森へ旅しよう
人類は約6000万年前、霊長類の仲間として森の中で生まました。
当時は、鬱蒼とした森があり、森の中には巨樹がそびえる環境がわが祖先の誕生の地ででした。
虫の声や小鳥のさえずり、小川のせせらぎや滝の音さらには風による木の葉のざわめきなどが聞こえるところ・・・その環境条件を今、最も忠実に再現してくれる場所、それが巨樹がある森です。
奥深い森の中を歩き、巨樹を探しみることによって、少しでも人間界を圧倒する自然の力や野生の森の姿を感じとれるのならすばらしい。そういった体験が生きる力に結びつくのなら、なおよい。
都市に住みたがる私たちだが、巨樹の森へ向かう旅は、人類のかっての環境を再確認する旅となるでしょう。
巨樹は人生の語り部
目に見えない精霊的感覚は、生命の輝きに満ちみちている純粋無垢な子どもたちや、死を意識しはじめている老年者に備わっているといわれます。
巨樹を訪ね歩く趣味を持つ人に、中高年者が多いのはそういった事情によるのかもしれない。
反面、若者たちは生きることに忙しい。なんとか生きて育っていかなければならない。
若い木も同じで、急いで花を咲かせなければならない。巨樹はそういうことから解放されている。中高年者は巨樹のそういった姿に自らの人生を重ね合わせ、そこから何かを得ようとしているのかもしれません。
私たちは、アニミズムを代表する生命のシンボルとして巨樹を敬い、畏敬の念をもって接してきました。
巨樹は樹幹にひそむ死した細胞に支えられながら、永々と生きつづけています。
死した木(心材)の上に成り立っているのが、巨樹という生命体であるがゆえ、巨樹は縦につながった家系図や祖霊を思い起こさせます。
巨樹たちの声に耳を傾けてみよう
巨樹は逢いにきた人たちに、語りかけている言葉があるような気がします。
巨樹は地球と生命の語り部であり、時にはシャーマン(祈祷師)になり、そして天と地を結ぶアンテナの役割も果たしていると思います。
巨樹と人間をつなぐもの
各地にある古い地図をたどってみれば、巨樹をご神木とする街並みが古道によってつながっています。
山里の巨樹はいわば、日々の生活の延長線上にあり、また神々が棲みつぐ極みの空間の境界点、天につながる回廊の出発点に位置しています。
そしてそこには、必ず地下水が豊富に湧き出てくる泉や井戸があります。
神を意識させる何物かが、巨樹の森には用意されているのだろう。
スギの巨樹は全国的にご神木として護られていることが多いが、これはスギがまっすぐ天に向かって空高く生長し、樹齢が1000年を超すこともよくあるからでしょう。
「杉」の語源の「直木(すぎ)」が表すように、その常緑性の力強い姿や長寿性、巨樹性は、神の依代・霊木として日本人には最も受け入れられやすかったにちがいない。
スギはまた、建築用材、樽、桶などの木製品を提供する素材であり、日常的にも不可欠な物資であった。生活必需品につながるものが心情的に神に近い存在となるのは、米や水と同様なのです。