登山者が体験したほんとうにあった怖い話。テント・ビバーク編

ほんとうにあった怖い話

テントで泊まる夜は、暗闇と静寂に包まれる。取材した話のなかでは、人の足音、話し声が聞こえるというケースがかなりを占めていた。

それは、人のこころのなかの恐怖が生み出すものなのかもしれない。しかし、埋解を超えた体験談もたくさんあったので、ここに招介しよう。

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死しても頂をめざす登山家たちの魂

岸野岳さん(神奈川県鎌倉市)

90年7月、旧ソビエト連邦時代、レーニン峰(7134メートル)の遠征に行ったときのこと。5500メートル付近に、第2キャンプを設宮するために、発っていると、前方にかなりの人びとが呪われた。犬をつれた人もいた。

総勢約六十人もの人がいたのだ。

実は、2週間ほど前、この地域で直下型の大地震があり、氷河の崩壊で大規模な雪崩があったとニュースで聴いていた。彼らは、地震で埋まった人びとの捜索隊だったのだ。当時、装備も充分でない彼らは、スパッツのかわりにスーパーのビニール袋のようなものを、すねに巻き付けていた。雪面を歩くたび、ビニールのガサガサ、ザクザクという音がする。

その夜、捜索隊が撤収していった後、我々4人は、その場にテントを張り、泊まった。皆がシュラフに潜り込み、眠りにつこうというときのこと。テントの周りから、ガサガサ、ザクザクというあの音が聞こえはじめた。

まさか…、捜索隊は撤収していったはず。隣を見ると仲間と目があった。「皆、ひきあげていったよなあ」「だれも残っていなかったぞ」。

ガサガサという音とともに、ロシア語も聞こえてきた。人びとがしゃべり、あたりを歩きまわっていた。

ここで高所トレーニングを行なっていたソビエトのおおぜいの登山家たち。直下型地震で、あっというまに、命を奪われて、今だに死んだことすらわからないのであろうか。同じ山を登ろうとする者として、死んでもなお、山頂をめざして登りつづける彼らが哀れでならなかった。

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UFOの光に吸い込まれた山仲間の魂

小笠原豊さん(長野県小諸市)

90年の春、穂高に登撃に行った友人3人の話。北尾根から前穂高をめざして登る途中、四峰あたりでビバークした。その夜、Aくんが用を足すため、テントの外にでた。その日は快晴で360度、周囲を見わたすことができたという。

遠く、奥又白池のほうに、強く輝く白い光の玉が見えたという。なんだろうとおもうまもなく光の玉は、あっというまに、UFOのようにAくんの目の前に迫り、しばらくそこに留まっていたという。Aくんは、その瞬間から、まったく記憶がなくなっており、気がつくと、テントにもどっていたという。

そして、彼は、突然、強烈な寒気と、押し寄せる恐怖で、ふるえが止まらず、3人はそのまま敗退して帰ってきたそうだ。悪天候で敗退、というのはよくある話だが、UFOで敗退するなんてと、彼らは、仲間から笑われたようだ。

しかし、その後、彼は原因不明の事故で、突然、亡くなってしまった。山に向かう途中、車の中で、呼吸停止の状態で発見されたという。わたしは、今でも、恐怖の体験を語る彼の顔を忘れることができない。

穂高に同行したほかのふたりに、穂高での話を聞くと、光る玉は見なかったものの、外が急に、明るく光ったのはわかったという。

彼の魂は、UFOに吸い込まれたのだろうか、それとも、光る玉は、死の世界の使者だったのだろうか。

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声が飛んでくる山の夜

渋谷克明さん

10年前のことだ。秋の長雨の時期に、わたしと友人は前夜発日帰りの予定で、八ガ岳に出かけた。

八ガ岳に近くなるにつれ、強い雨になってきたため、あるキャンプ場で夜を過ごすことにしたらテントを設営した後、酒盛りを始めた友人は、すぐに寝てしまったので、わたしはひとり、テントに当たる雨音を聞いていた。

しばらくして、子どもと女性の声が耳に届いた。数人いるようだ。笑い声も聞こえてきた。我々のほかに人がいたのかと、外をうかがったが、周りは真っ暗。ヘッドランプをつけて声のほうへ、歩いてみた。100メートル歩かないうちにヤブに突き当たり、キャンプ場の周りもすぐに巡ってしまった。まわりには、ほかのテントも人影もなかった。空耳かもしれない。

テントにもどって、しばらくすると、自分も眠ってしまったが、また人の声で日を覚ました。時間は、夜の8時。今度はずいぶん近い。テントから出ても、灯りは見えないし、ほかのテントもない。もどって、友人を起こし、ふたりで外のようすをうかがったが、だれもいないのである。その後、わたしと友人は、テント越しににぎやかな声を開くことになった。気味がわるくなり、あわててテントをたたみ、キャンプ場を出た。

帰ってから、知人に、この話をしたら、「声は湿度とか気圧とか気流などの影響で、飛ぶという。特に山麓などは、よく聞こえるらしい」と言われた。しかし、テントの中にいるときだけ聞こえて、外に出ると聞こえないのだと言っても、とりあってくれない。

あるクライマーが、こんなことを言っていたのを思い出して、彼に話した。「谷川岳の一ノ倉沢に行くと夜、テントの外で、山で亡くなった仲間が遊びにきて、いっしょに飲もうと言うんだ。おれはコッヘルに酒を注いで、テントの外に置くことにしている」と。

夕方から夜になるにつれて、大気が冷えて、空気層に気温差ができ、遠くの声や電車の音が、よく聞こえる、という話を、物理かなにかで学んだようにおもう。だが、山で聞こえてくる人の声は、それだけではかたづけられない、なんともいえない不気味さがあるのだった。

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亡くなった登山家が呼んでいた。中央アルプス・テントの怪

須藤元郎さん(東京都武蔵野市)

15年くらい前の12月頃、3、4人の仲間といっしょに、中央アルプスの、とある山小屋の横に幕営した。

夜は、酒宴となったが、翌日の雪訓、登頂に備え、早くにシュラフに潜り込んだ。テントでの睡眠は、多少、寝苦しさは否めないが、山憤れしているわたしは、すぐに眠ってしまった。

夜半に、ふと、目がさめると、異様な空気が漂っていた。
テントが異常に、はためいている。驚いて跳び起きようとしたわたしの足を、何者かが、テントの外からつかみ、強い力りで外へ引っ張りだそうとする。

わたしは必死になって両隣の仲間にしがみつき、抵抗したためか、事なきを得た。その数秒間、テントは異常なくらい波打ち、はためき、光が点滅していた。

もともとわたしは、迷信などもいっさい信じない性格である。しかしこのときのことばかりは、やけにリアルな映像をともなって、今でも鮮明に憶えている。

※掲載している記事と画像は関係ありません。
※参考/山と渓谷

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