地図に示されたコース通りに歩いて、道標も確認しながら来たつもりなのに、なぜか違う道を歩いているような気がしてくることがあります。
そのまま歩き続けても、不安がさらに蓄積されるだけで悪循環になります。
最悪、本当に道に迷って引き返すこともできない状況になることもあります。
道を間違えているかも…って感じたら、まずは腰を落ち着けて、頭を冷やそう。
ひとり歩きの登山は楽しい反面、危険と隣り合わせです。
●道に迷った時の危険性と、起きる事故
「雪渓で、霧にまかれて何も見えなくなって、迷ってしまった」
「道標が倒れていて、違うルートを歩いてしまった」
「岩場でペンキの目印を見失って、急峻な崖に出てしまった」
「獣道にまぎれこんで、気がついたらルートから遠く離れてしまっていた」
これらは単独登山者が、誰もが数回は経験することばかり。
道に迷うというのは、グループ登山でも起きることですが、実は単独登山をしている時こそ多いという。
なぜなら単独での山歩きは、グループ登山と違って、道に迷っても、「この道、間違っているかもしれない」と、客観的に気付いて補正してくれる人がいないことが大きな原因でしょう。
そんな時に問題になるのは、道に迷ったと知ったとたん、単独登山者は不安にかられ、いたずらに歩きまわってしまう傾向にあることです。
例えば、道に迷ったと気付いて雪渓の中を手探りで歩き、気がつくと足元にクレバスが大きな口を開いていたとか、獣道を抜け出るために藪漕ぎをして行き着いた先が危険なガレ場だった、というようにです。
道に迷ったという不安な心理状態が、なんとか脱出口を見つけようと必死になってそういう行動をとらせるのだろうが、貴重な体力と時間をムダにするばかりか、疲労凍死、あるいは、危険箇所からの転落や滑落も十分に考えられます。
●道に迷った時の行動と焦らない工夫
もしも道に迷ったと気づいたら、慌てず焦らず落ち着くことが大切です。
深呼吸を数回したり、チョコレートをかじってみたりして、不安な心を鎮めることです。
そして、あたりを見渡し、今来た道を確認してから、忠実に引き返していくことです。
そのまま間違った道を、進んで行かないようにしてください。
引き返す時には注意することがあります。
絶対に脇道に入らないように、これまで歩いてきた自分の足跡を、用心深く探しながら歩くこと。
そして、正規のルートだと自信が持てるところまで戻り、地図、磁石、高度計で位置を確認してから再出発することです。
「戻るのは時間がもったいない」とか、「戻る近道は無いだろうか?」と思うほうが、もっと時間の無駄になります。
『迷ったら戻る』は山歩きの鉄則だと思ってください。
それから守りたいのは「道に迷ったら谷へ下るな」の格言どおりに、谷や沢筋に向かわないこと。
谷へ向かうと、里へ近くなると思いがちだが、それは錯覚で、とくに沢は滝やゴルジュなどの危険箇所が連続しています。
なるべく尾根を求めて歩くようにしたほうが見通しもきくし、登山道を発見しやすくなります。
もしも、霧で見通しがきかず動けなくなった時は、濡れないように雨具を着こんで、その場で待機しているのが賢明です。
意外と早く霧がはれる時もあるので、その時に進路を見極めて進みます。
もし、霧が晴れない時は、歩きまわらずにツエルトやレスキューシートを出してビバークすることをおすすめします。
視界がきかないところを強引に進んで、ガケから転落しないとも限らないからです。
天気のよい時は、背の高い木を採し、十分に注意して、木に登ったり、大きな岩があったら上がってあたりを見まわしてみるとよいでしょう。
運が良ければ、登山者が歩いているのを、意外と簡単に見つけられるかもしれない。
●道に迷わないためには
○初めの一歩から慎重に歩くことを心がけること
○考えごとをしたり、無目的に歩かない
○歩いている道が本当に登山道なのか、を疑って検証してみる
もし、心の片隅で「これでいいのかな?」「この道で合ってるのかな?」という疑問が少しでもわいできたら立ち止まって、地形図や磁石、高度計を出して考えてみよう。
「なんとかなるさ」と疑問を黙殺してしまわないように、黙殺した時点から道に迷い始めているともいえるからです。
単独登山者には大胆さが必要な時もあるが、いざ、道に迷った時はつとめて小心な態度で向かうべきです。