登山について思うこと 作家湊かなえ氏

2014年も富士山をはじめ多くの山で、老若男女問わず、様々なスタイルのハイカーで賑わいました。
しかし秋の行楽シーズンの御嶽山の噴火で、改めて自然の怖さを見せつけられたように思います。

昔、山は麓の人々によって「神様の象徴」であり、神そのものでありました。
その神聖な地に、人間が足を踏み入れ、いつの間にか自然への畏怖を忘れ、己が楽しむためだけに山を登るようになりました。そんな矢先の噴火でした。
日経新聞にて、人気作家である湊かなえ氏がコラムを書いてらっしゃたのでここに掲載させていただきます。

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●登るためには山を知る努力が必要

御嶽山の噴火からひと月が経ちました。亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

このコーナーで2度、登山について書きました。楽しかった、と。それで終えてはいけない気がして、このひと月、自分なりに考えたことを書きたいと思います。

噴火だけでなく、登山には生死にかかわる様々な危険が伴います。今年の夏に登山をした際も、遭難者を探すヘリコプターが頭上で飛んでおり、遺体が発見されたことを後で知りました。コース上にも、滑落事故や落石事故が起きた場所がありました。見るからに危険そうな場所ではありません。木の生えているところから岩場に出ると、視界が開けて明るくなるので、解放感を覚え、足を止めて空を見上げたくなります。疲れていると、休憩をしたくなるし、昼時なら、食事を取るのにちょうどよさそうだと思えます。しかし、そういった場所こそ、落石が起こりやすく危険だと、一緒に行った方に教えられ、自分の無防備さを思い知りました。その後は、同じような場所に出ると、つい足を止めそうになりながらも、「落石注意」と足早に通過するようにしました。

下山したところに神社があり、お参りした際、山とは関係ないお願いをしたのですが、神社を出て自分が登ってきた山を振り返ってから、そうではないだろう、と気付きました。先の願い事をするのではなく、無事に下山できたことを感謝しなければならなかったのだ、と。

私はこれからも登山をすると思います。まだ、見たい景色があり、歩きたいところがあるからです。

私の「人生最高の景色」3本指に入る、ニュージーランドのトンガリロ国立公園も火山帯です。15年前に行った際、月面世界のような景色に感激し、去年の春に再訪したのですが、その3カ月前にトンガリロ山の噴火があり、トレッキングコースの変更がありました。見どころは押さえていたものの、従来のコースを歩きたかったという思いが残り、また行こうと思っています。

しかし、家族はこれまで通り、手放しで送り出してくれるだろうか。行ってらっしゃいと言ってくれても、これまで以上の心配をかけてしまうはずです。気にしないで、と言えるのはこちらが登山をする側だからで、逆の立場なら、無事帰ってくるまで心配でたまらないはずです。

家族を送り出すとしたら。まず、ヘルメットを絶対に持たせます。岩場では足を止めるな、鎖場では鎖を頼り切るな、防寒対策をしっかりしろ、などと思いつく限りの注意点を紙に書いて渡すかもしれません。それでも、個人での対策は限界があります。家族が向かうところは、安全な場所であって欲しい。

新聞等で「すべての火山にシェルターの設置を」という記事を目にすると、いち早く実現して欲しいと思います。同時に、費用はどこから出るのだろう、どこが主導になるのだろう、国? 都道府県? などと疑問が生じます。設備向上に本格的に取り組むのなら、入山料が必要ではないかとも思います。寄付の意志はあります。実現までには膨大な時間がかかるはずです。だけど、立ち消えにはなって欲しくない。

山は人に登ってもらうためにあるのではないかもしれないけれど、登るためには山を知る努力が必要なのではないかと思います。 (作家)

※参考 2014/11/04 日本経済新聞

●作家 湊かなえ氏
1973年広島県生まれ。武庫川女子大学家政学部卒。
2005年、第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選、07年、第35回創作ラジオドラマ大賞受賞。同じ年、第29回小説推理新人賞を「聖職者」で受賞。
08年、「聖職者」を第一章に、その後の顛末までを描いた長篇小説『告白』を刊行。同作が2008年週刊文春ミステリーベスト10第1位、第6回本屋大賞を受賞する。「告白」は2010年6月、松たか子主演で映画公開。著作:告白(2008年8月 双葉社 / 2010年4月 双葉文庫)、少女(2009年1月 早川書房)、贖罪(2009年6月 東京創元社)、Nのために(2010年1月 東京創元社)、夜行観覧車(2010年6月 双葉社)、白ゆき姫殺人事件(2012年7月 集英社)

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